日本人の三人に一人が感染しているともいわれる「ピロリ菌」。

 

2013年に従来の胃・十二指腸潰瘍などに加え、

 

ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎(慢性胃炎)と診断された人の除菌治療が

 

医療保険で受けられるようになり、患者の受診機会が広がった。

 

ただし、保険適用には内視鏡検査による診断が必要となる。

◎ピロリ菌とは

 

 ピロリ菌は、最初、胃の出口(ピロルス)で発見され、菌の形がらせん状(ヘリカル)をしている細菌(バクテリア)ということで、「ヘリコバクター・ピロリ」と名付けられた。ピロリ菌に感染するのは、通常、乳幼児期であり、成人になって感染することは稀である。五十歳以上では半数以上が保菌者というデータもあるが、衛生環境の改善に伴い、現代の若年感染者は1割程度に減少している。

 

 

◎ピロリ菌と病気

 

 ピロリ菌は胃の粘膜に長期間生息し、慢性胃炎を引き起こす。慢性胃炎に伴う代表的な病気としては胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌がある。

 胃潰瘍…ピロリ菌感染胃炎の状態に、ストレスや暴飲暴食などの環境要因が加わり、胃の粘膜が傷害を受け潰瘍が生じる。

 十二指腸潰瘍…分泌された胃酸が胃から十二指腸に流れ込み、十二指腸の壁に潰瘍ができる。若年層に多い。

 胃癌…ピロリ菌が産生する毒素や、炎症による二次的な影響により、胃の正常細胞が癌化すると考えられている。

 その他、胃マルトリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑症についてもピロリ菌除菌の有効性が確認されている。ただしピロリ菌に感染していても、すべての人がこれらの病気になるわけではなく、大半は無症状で、健康体でいられる。

ピロリ菌の検査

 

 感染の有無を調べる検査には、血液検査、尿検査、便検査、尿素呼気試験、内視鏡検査がある。

 血液検査、尿検査…血液や尿中に、ピロリ菌に対する抗体があるかどうか調べる。初期的な検査。

 便検査…便中に、ピロリ菌があるかどうか調べる。除菌治療後の判定にも応用できる。

 尿素呼気試験…特殊炭素を成分に含む尿素を飲み、呼気中の特殊炭素の量を測定して判定する。精度が高い方法である。

 内視鏡検査…胃の粘膜の組織を内視鏡で採取し、ピロリ菌の有無を調べる。

 いずれの検査も外来通院で受けることができる。

除菌するには

 

 医療保険の適用になっている除菌治療では、三種類の薬(二種類の抗生物質と一種類の酸分泌抑制薬)を使用する。検査の結果、ピロリ菌感染が確認されると、これら三種類の薬を、朝食後と夕食後の一日二回、一週間続けて服用する。再治療を含めれば9割以上の患者はピロリ菌を除去できる。完全に除去できたかを調べるために、治療後約1~2ヶ月の期間をおいて再検査が行われる。

 

ピロリ菌と胃癌

 

 胃癌が発症する患者のほとんどはピロリ菌が陽性であり、ピロリ菌感染と胃癌発症の因果関係が示唆されている。すなわち、ピロリ菌がひきおこす慢性胃炎が胃癌の主たる原因であり、内視鏡検査で慢性胃炎が認められればピロリ菌除菌の適応となる。ピロリ菌を除菌することで胃癌が発生する確率が低下することが期待されるが、決して胃癌が発生しなくなるわけではない。たとえ除菌治療が成功したとしても、年1回程度の胃癌検診(内視鏡検査)を継続することは必要である。もし胃癌が発生しても、検診で早期に発見すれば、多くの場合で胃癌を治すことができる。

■協力/広島大学大学院 消化器・代謝内科学 伊藤 公訓 准教授

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